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名古屋地方裁判所 昭和33年(行)10号 判決

原告 東海製糸株式会社

被告 名古屋国税局長・碧南税務署長

訴訟代理人 水野祐一 外四名

主文

被告名古屋国税局長が昭和三二年一一月二一日なした名局法審第二三三号(昭和二五年度分)、同第二三五号(昭和二六年度分)、同第二三九号(昭和二八年度分)の各審査決定を取消す。

被告名古屋国税局長が昭和三三年一二月二六日なした名協審第六〇八号、同第六〇九号(以上昭和二五年度分)、同第六一〇号、同第六一一号(以上昭和二六年度分)、同第六一二号、同第六一三号(以上昭和二八年度分)の各審査決定を取消す。

被告碧南税務署長が昭和三二年一一月二五日なした再更正決定及び昭和三四年一月二九日なした誤謬訂正処分を取消す。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は被告らの負担とする。

事実

第一、当事者双方の申立

一、原告の申立

(一)  被告名古屋国税局長(以下被告国税局長という。)が原告に対して為したる左記法人税審査決定はこれを取消す。

(1) 昭和三二年一一月二一日附名局法審第二三三号を以つて、原告の昭和二五年四月一日から昭和二六年三月三一日まで(以下昭和二五年度という。)の所得金額を金一二、一六二、七〇〇円と見積りたる審査決定全部。

(2) 同日附名局法審第二三五号を以つて、原告の昭和二六年四月一日から昭和二七年三月三一日まで(以下昭和二六年度という。)の積立金税額を金三〇七、五一〇円と為したる審査決定の部分。

(3) 同日附名局法審第二三八号を以つて、原告の昭和二七年四月一日から昭和二八年三月三一日まで(以下昭和二七年度という。)の所得金額及び積立金額につき昭和三一年二月二九日附被告碧南税務署長のなしたる更正決定による所得金額六、九四八、一〇〇円、積立金額三、九九〇、六〇〇円を維持して原告の審査請求を棄却した部分。

(4) 同日附名局法審第二三九号を以つて、原告の昭和二八年四月一日から昭和二九年三月三一日まで(以下昭和二八年度という。)の所得金額六六、八〇〇円、積立金額五、六八五、一七三円となして税額を算出したる審査決定の部分。

(5) 昭和三三年一二月二六日附名協審第六〇八号を以つて、原告の昭和二五年度の法人税につき前記名局法審第二三三号名協審第五二八号法人税審査決定を取消したるもの。

(6) 同日附名協審第六〇九号を以つて、原告の昭和二五年度の法人税につきなしたる審査決定全部。

(7) 同日附名協審第六一〇号を以つて、原告の昭和二六年度の法人税につき前記名局法審第二三五号及び昭和三二年一一月二一日附名協審第五三〇号法人税審査決定を取消したるもの。

(8) 同日附名協審第六一一号を以つて、原告の昭和二六年度の法人税につきなしたる審査決定全部。

(9) 同日附名協審第六一二号を以つて、原告の昭和二八年度の法人税につき前記名局法審第二三九号及び昭和三二年一一月二一日附名協審第五三四号法人税審査決定を取消したるもの。

(10) 同日附名協審第六一三号を以つて、原告の昭和二八年度の法人税につきなしたる審査決定全部。

(二)  被告碧南税務署長が原告に対して為したる左記法人税等の更正決定及び誤謬訂正通知はこれを取消す。

(1) 昭和三二年一一月二五日附を以つて、原告の昭和二七年度所得金額七、六四三、〇〇〇円、積立金額二、六四一、八二二円と見積りてなしたる法人税再更正決定全部。

(2) 昭和三四年一月二九日附碧南直法第七九号を以つて、原告の昭和二七年度法人税に対する誤謬訂正処分全部。

(三)  訴訟費用は被告等の負担とする。

との判決。

二、被告等の申立

(一)  原告の請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は原告の負担とする。

との判決。

第二、原告の請求原因

一、原告は生糸の製造販売を業とするものであるが、こゝ数年事業成績次第に低下し経営困難となつたため、昭和三二年一月一五日解散決議をし、同月二五日その登記を経由して清算法人となつている。

二、原告に対する昭和二五年度以降昭和二八年度までの法人税額の申告並びに課税処分は次の如き経過を経ている。

(1)  昭和二五年度につき、

確定申告  昭和二六年五月三一日

所得金額  三、八一二、八一九円

税額    一、三三四、四八〇円

再更正決定 昭和三一年三月二八日

所得金額 一六、二一三、〇〇〇円

本税    五、六七四、五五〇円

重加算税額 二、一七〇、〇〇〇円

審査決定 昭和三二年一一月二一日被告国税局長が同日附名局法審第二三三号を以つてなしたもの(請求の趣旨(一)の(1))

所得金額 一二、一六二、七〇〇円

本税    四、二五六、九四〇円

重加算税額   八九一、五〇〇円

被告国税局長は昭和三三年一二月二六日附名協審第六〇八号を以つて右第二三三号決定を取消し(請求の趣旨(一)の(5))同日名協審第六〇九号を以つて

所得金額  九、六四一、二〇〇円

と決定した(請求の趣旨(一)の(6))

(2)  昭和二六年度につき、

確定申告  昭和二七年五月三一日

所得金額          〇円(但赤字一八一、〇八一円)

積立金額  二、二九〇、七〇〇円

税額      一三五、三四〇円

更正決定  昭和二八年五月三一日

所得金額  三、四七九、四〇〇円

積立金額  三、二一二、七〇〇円

本税    一、六六一、二三〇円

重加算税    七六二、五〇〇円

審査決定 昭和三二年一一月二一日被告国税局長が同日附名局法審第二三五号を以つてなしたもの(請求の趣旨(一)の(2))

所得金額          〇円

積立金額 不明(決定に表示なし)

本税      三〇七、五一〇円

被告国税局長は昭和三三年一二月二六日名協審第六一〇号を以つて右決定を取消し(請求の趣旨(一)の(7))、同日名協審第六一一号を以つて左のとおり決定した(請求の趣旨(一)の(8))

所得金額      八、二〇〇円

積立金額  五、六三二、七〇〇円

(3)  昭和二七年度につき、

確定申告 昭和二八年五月三一日

所得金額  五、五一〇、九七〇円

積立金額  二、六二七、七〇〇円

税額    二、四二〇、九六三円

更正決定 昭和三一年二月二九日

所得金額  六、九四八、一〇〇円

積立金額  三、九九〇、六〇〇円

本税    三、一一五、六三〇円

過少申告加算税  一五、五五〇円

右更正決定に対する審査請求に対し被告国税局長は昭和三二年一一月二一日名協審第二三八号を以つて審査請求を棄却したが(請求の趣旨(一)の(3))、被告税務署長は昭和三二年一一月二五日次の通り再更正決定をした。

再更正決定 昭和三二年一一月二五日(請求の趣旨(二)の(1))

所得金額  七、六四三、〇〇〇円

積立金額  二、六四一、八二二円

本税    三、三四〇、〇五〇円

過少申告加算税  一一、二五〇円

そして更に右税務署長は昭和三四年一月二九日附碧南直法第七九号を以つて左のとおり右決定の誤謬訂正をした(請求の趣旨(二)の(2))

所得金額  六、九四八、八〇九円

積立金額  四、二九八、二〇〇円(再更正決定より増額)

(4)  昭和二八年度につき、

確定申告 昭和二九年五月三一日

所得金額     三七、九二〇円

積立金額  五、一四八、五〇〇円

税額      二三二、四二五円

更正決定 昭和三一年二月二九日

所得金額     六五、三〇〇円

積立金額  六、三四二、九〇〇円

本税      三一七、一四〇円

過少申告加算税   四、二〇〇円

審査決定 昭和三二年一一月二一日被告国税局長が同日附名局法審第二三九号を以つてなしたもの(請求の趣旨(一)の(4))

所得金額     六六、八〇〇円

積立金額  五、六八五、一七三円

税額      二八四、六九〇円

被告国税局長は昭和三三年一二月二六日名協審第六一二号を以つて右決定を取消し(請求の趣旨(一)の(9))、同日名協審第六一三号を以つて次のとおり決定した(請求の趣旨(一)の(10))

所得金額     一一、五〇〇円

積立金額  六、六六〇、一〇〇円

しこうして原告は確定申告に基く算出税額をその都度全額支払済みである。

三、原告の右各事業年度における所得金額及び積立金額は前項各記載の確定申告の通りであり、これを超過する前記各審査決定並びに昭和二七年度についての再更正決定及び誤謬訂正処分は何れも違法不当であるから、その取消を求める。

四、行政処分の不可変更力等について

(1)  一般に行政処分については公益上の見地から相当と認められる限り処分庁自ら取消し得るものであるが、税法上の審査決定は形式上行政処分であるがその実質は法律上の争訟に対する行政官庁として最終審の裁判であり、他の一般の行政処分と著しく性質を異にする。かくの如き審査決定が其の後の情勢で何時でも変更せられる様では被課税者の権利は何時までも不明確不確定のまゝ放置せらるゝに等しいのでその変更は許されない。従つて被告国税局長のなした前審決定を変更する審査決定は当然無効である。

(2)  税法上の不服申立方法は直に訴訟提起を許さず、原則として原処分に対し再調査決定を求め、この決定に対して訴訟を提起することを認めているが、これら一連の手続は所謂裁判手続であり、行政庁の決定といえども他の一般の行政処分と異り処分庁自らこれを変更し得ず、すでに裁判所に係属した以上行政庁の決定に対する裁判権は挙げて裁判所に移管したものであつて、行政庁の手を離れているものと見なければならない。行政庁がその後そのなしたる審査決定等に事実誤認、錯誤等の事実を発見した場合には裁判所に於てその事実を開陳すれば足りる。よつて右審査決定のうち、本訴係属(注、被告らに訴状が送達せられたのは、昭和三三年三月六日)以後になされたものは違法である。

五、不利益変更禁止の原則について、

税法に於ける再調査請求、審査請求等一連の行為は実質上の争訟であつて、ただ行政庁にその審判権を委ねられている争訟手続である。然らば右請求権者は常に自己に有利なる決定を得る目的を以つてこれらの請求をなすのであつて自らの不利な危険を想定して請求する者はない。従つて再調査決定及び審査決定に於ては請求を却下するか棄却するか又は原決定の全部又は一部を取消すか何れかによるの外はない。所得金額又は積立金額について原決定よりも多額を認めることは違法であつて許されない。右の理論よりして被告国税局長のなした昭和二六年度についての前記名局法審第二三五号を以つてなした審査決定(積立金額増額)及び名協審第六一一号を以つてなした審査決定(所得及び積立金額増額)並びに昭和二八年度についての前記名局法第二三九号を以つてなした審査決定(所得金額増額)及び名協審第六一三号を以つてなした審査決定(所得及び積立金額増額)はそれぞれ各原審査決定より所得ないし積立金額を増額しているので違法無効である。よつてその取消を求める。

六、更正又は決定の期間について

(1)  昭和二五年度につき、

昭和二五年度の原告の確定申告書提出期限は昭和二六年五月三一日であり、原告は同日申告書を提出し、申告税額を完納した。而して被告税務署長のなしたる再更正決定は昭和三一年三月二八日である。右は法人税法第三一条の二の申告書の提出期限から三年を経過した日に相当し、違法無効の決定であり、従つて右再更正決定についてなされた再調査請求棄却決定及び審査決定は無効である。よつてその取消を求める。

(2)  昭和二六年度について、

昭和二六年度における原告の確定申告は昭和二七年五月三一日が申告期限であり、原告は右申告をなし申告税金を完納している。被告税務署長はこれに対し昭和二八年五月三一日更正決定を通知し、更に同年一〇月二七日再更正決定を通知した。税法において課税価格の再更正は当初なされた更正決定をそのまゝとしてその脱漏部分のみを追加する性質のものではなく再度の更正決定により当初の更正決定は当然効力を喪失し消滅するものである。

然らば昭和二八年五月三一日の更正決定は同年一〇月二七日の再更正決定により当然効力を喪失したといわねばならない。而して右更正決定に対して原告は直ちに再調査請求をなし、その結論の出ない間に右再更正決定があつたので更にこれに対し再調査請求をしたところ結局昭和三二年一一月二一日更正決定に関する「みなす審査」の決定として名局法審第二三五号の審査決定がなされ、更に同日再更正決定に関する「みなす審査」の決定として名局法審第二三六号の審査決定がなされるに至つた。しかし前述の如く更正決定は再更正決定がなされると同時にその効力を喪つたるものであるから爾後右更正決定に対する諸決定(名局法審第二三五号、名協審第六一〇号、同第六一一号)は全部無効のものといわねばならない。よつてこれに属する審査決定の取消を求める。

然らば同年度について現存する処分は前記再更正決定及びこれを前提とする前記名局法審第二三六号の審査決定のみであるが、右再更正決定は右審査決定により全部取消されたのであるから結局原告の確定申告通りとなつた。しかるに被告国税局長は昭和三三年一二月二六日附名協審第六一一号を以つて原告の所得金額、積立金額、税額を認定しているが、これはすでに納税期限たる昭和二七年五月三一日以降六年半を経過しており、会計法第三〇条によつて時効完成後であるから無効である。よつてその取消を求める。

(3)  昭和二七年度につき、

昭和二七年度においる被告税務署長の昭和三二年一一月二五日になしたる再更正決定は当該年度の申告期限でありかつ現実に申告書を提出した昭和二八年五月三一日以降すでに三年を経過しているので当然無効である。従つてこれを前提としこれに附属する昭和三四年一月二九日の税額誤謬訂正通知も無効といわざるを得ない。

よつてこれについて取消を求める。

第三、請求原因に対する被告らの答弁

第一項中、原告が生糸の製造販売を業としていること及び原告がその主張の日に解散し清算法人となつていることは認めるがその余は不知。

第二項記載の事実は左記事項を追加、訂正する外すべて認める。

(1)  昭和二五年度については原告主張の再更正決定の前に左のとおり更正決定がなされている。

更正決定 昭和二七年五月三〇日

所得金額 四、五四六、六〇〇円

税額   一、五九一、三一〇円

右更正決定は確定した。

最終決定(昭和三三年一二月二六日名協審第六〇九号)は後記第四記載のとおりである。

(2)  昭和二六年度については、原告主張の更正決定と審査決定との間に左記再更正決定がなされている。

再更正決定 昭和二八年一〇月二六日

所得金額 五、七八五、七〇〇円

積立金額 三、二一二、七〇〇円

本税   二、六二九、九八〇円

重加算税   四八四、〇〇〇円

原告主張の更正決定及び右再更正決定に対しては共に原告より再調査請求があつたが、これがいずれもみなす審査請求に移行し、被告国税局長は昭和三二年一一月二一日次のとおり決定した。

(イ)  再更正決定を取消す審査決定

(ロ)  更正決定の一部を変更し

所得金額         〇円

積立金額 四、七五〇、二〇〇円

本税     三〇七、五一〇円

最終決定(昭和三三年一二月二六日名協審第六一一号)は後記第四記載のとおりである。

(3)  昭和二七年度については、原告主張の更正決定に対し原告より再調査請求があつたが、被告税務署長は昭和三一年七月三日再調査請求却下決定をなした。これに対し原告より審査請求があり、被告国税局長は昭和三二年一一月二一日左のとおり決定した。

(イ)  審査請求棄却

(ロ)  再調査請求却下決定取消

よつて被告税務署長は原告主張のとおり再更正決定をするに至つた。

右再更正決定に対し原告より再調査の請求があり、これがみなす審査請求に移行した後、被告税務署長は原告主張の誤謬訂正処分をした。

その後被告国税局長は昭和三四年五月一日右みなす審査請求に対する審査決定をした。

最終処分(昭和三四年一月二九日碧南直法第七九号誤謬訂正処分)は後記第四記載のとおり。

(4)  昭和二八年度分最終決定(昭和三三年一二月二六日名協審第六一三号)は後記第四記載のとおり。

第四、被告らの主張

一、被告らの査定した課税標準及び税額は次のとおりである。

(1)  昭和二五年度につき、

原告は昭和二五年度決算書に基いて次のように税務調整を行い被告税務署長に確定申告をなした。

当期利益金       六、三一二、三四二円

加算 源泉徴収認定給与追徴税 二一、二九五円

同利子税              七二五円

減算 繰越欠損金   △二、五二一、五四三円

差引所得金額      三、八一二、八一九円

しかし右申告所得には受取小切手金五、〇九四、五六二円の所得漏れがある。原告は昭和二六年八月一日株主である杉浦藤三郎外四名から金七、〇〇〇、〇〇〇円を受入れたとして、これを仮受金として負債勘定に計上し、その金は訴外東海銀行西尾支店の原告の普通預金口座に預け入れたように記帳しているが、右預金は原告会社が昭和二六年八月一日同行から支払を受けた左記小切手五通合計金七、〇九四、五六二円のうちの金七、〇〇〇、〇〇〇円であつて決して右訴外人等より受領した仮受金ではない。

小切手の表示

銀行整理番号 依頼人       金額      小切手番号     振出年月日

一九一 山口彦三郎    三九、一五二円二八 R八五七九一 昭和二五、一二、二九

二三五 中村善次郎 二、〇〇〇、〇〇〇、〇〇 R八五八三六 昭和二六、五、一八

二二四  三好精司 一、四六七、〇〇〇、〇〇 R八五八二五 昭和二六、三、二三

二二八 中川善太郎 一、〇〇〇、〇〇〇、〇〇 R八五八二九 昭和二六、三、三一

二二七  河田誠司 二、五八八、四一〇、〇〇 R八五八二八 昭和二六、三、三一

計        七、〇九四、五六二円二八

振出人及び支払人はいずれも東海銀行西尾支店、裏書人は原告、右五通の振出依頼人は中川善太郎を除き他はいずれも架空の人物であることに徴し、又原告の帳簿に訴外前田商店に対する売上金の一部が記帳されていないことに鑑み、右小切手金七、〇九四、五六二円は原告の脱漏所得であると解せられる。そして右小切手金のうち金五、〇九四、五六二円は昭和二五年度の所得であり、残二、〇〇〇、〇〇〇円は昭和二六年度の所得であることが、右小切手の振出日の関係から推定できる。

被告税務署長が原告の昭和二五年度の所得につき昭和二七年五月三〇日なした更正決定の算出の根拠は左のとおりである。

課税所得金額               四、五四六、六〇〇円

(A)決算計上利益金           六、三一二、三四二円

(B)加算

減価償却超過額                 二二、五〇九円

在庫格下否認                 五三二、九六四円

同(製品)                  一二三、三七二円

未払金中不当                 二三七、〇〇〇円

(C)減算

退職給与積立金取消             △一六〇、〇〇〇円

差引所得金額               七、〇六八、一八七円

繰越欠損金控除             △二、五二一、五四三円

(D)差引課税所得金額          四、五四六、六四四円

法人税額                 一、五九一、三一〇円

右更正決定に対しては不服の申立がなく確定したものであるが、右所得金額に前記脱漏所得金五、〇九四、五六二円を加算すると、原告の昭和二五年度の課税所得金額は金九、六四一、二〇〇円となる。よつて被告国税局長は次のとおり審査決定をした。

所得金額                 九、六四一、二〇〇円

本税                   三、三七四、四二〇円

重加算税                   八九一、五〇〇円

(2)  昭和二六年度につき、

被告国税局長の調査したところによると、原告の所得金額は金八、二〇〇円、積立金額は金五、六三二、七〇〇円であり、これら課税標準に対する法人税額は金三七二、七三〇円でその算出の根拠は次のとおりである。

(イ) 課税所得金額     八、二〇〇円

(A) 決算計上利益金           △四〇九、六四七円

(B) 右に加算した金額         二、二四四、二二〇円

内訳、損金に計算した県村民税         二〇一、三七〇円

損金計上役員賞与                四〇、一〇〇円

源泉徴収加算税                  二、七五〇円

仮受金不当                二、〇〇〇、〇〇〇円

(前記小切手番号二三五の小切手による脱漏所得)

(C) 決算計上利益金額から減算した金額 一、八八八、〇八一円

内訳、減価償却の当期認容額            三、九三九円

未納利子税                  二五五、一六一円

利益の配当                   三六、三八五円

未納事業税                  六九九、二六〇円

未払金                    二三七、〇〇〇円

在庫格下                   五三二、九六四円

在庫製品                   一二三、三七二円

(D) 仮計((A)+(B)-(C))    △五三、五〇八円

(E) 寄附金の損金不算入額          六一、七一九円

(F) 差引課税所得金額((D)+(E))    八、二一一円

(G) 右に対する法人税額            三、四四四円

(ロ) 課税積立金額 五、六三二、七〇〇円

内訳、法定準備金               三〇三、〇〇〇円

退職積立金                  一〇〇、〇〇〇円

減価償却超過額                 二二、五〇九円

在庫格下                   六五六、三三六円

未払金不当                  二三七、〇〇〇円

受取小切手金漏              五、〇九四、五六二円

未納法人税               △四、二六五、九二〇円

繰越利益金                二、一五〇、七六四円

税金引当金                一、三三四、四八〇円

右に対する法人税額は金三六九、二八九円である。

(ハ) 以上各法人税額合計((イ)+(ロ)) 三七二、七三〇円(一〇円未満切捨)

(3)  昭和二七年度につき、

被告国税局長の調査したところによると、原告の所得金額は金六、九四八、八〇〇円、積立金額は金四、七九八、二〇〇円であり、これら課税標準に対する法人税額は金三、一三一、三〇〇円、過少申告加算税は金二六、八〇〇円であつてその算出の根拠は次のとおりである。

(イ) 課税所得金額 六、九四八、八〇〇円

(A) 決算計上利益金額         六、六二〇、一六六円

(B) 右に加算した金額           三八三、五七二円

内訳、損金に計算した法人税          二五六、八三〇円

損金に計算した県村民税             一五、三四六円

前期認容利子税                 一八、七三〇円

棚卸格下                    九二、六六六円

(C) 決算計上利益金額から減算した金額    五七、〇二九円

内訳、減価消却の当期認容額            三、二四九円

利益の配当                   五三、八八〇円

(D) 仮計((A)+(B)-(C))  六、九四六、七〇九円

(E) 法人税額から控除される所得税       二、一〇〇円

(F) 差引課税所得金額((D)+(E)) 六、九四八、八〇九円(但し実際に通知したのは六、九四八、八〇〇円)

(G) 右に対する法人税額        二、九一八、四九〇円

(ロ) 課税積立金額 四、七九八、二二七円

内訳、法定準備金               三〇三、〇〇〇円

退職積立金                  二〇〇、〇〇〇円

償却超過額                   一八、五七〇円

仮受金不当                七、〇〇〇、〇〇〇円

仮払金漏                    九四、五六二円

未納利子税                 △二五五、一六一円

未納事業税                 △六九九、二六〇円

繰越益金                 一、三〇五、七七六円

税金引当金                  一三五、三四〇円

未納法人税               △三、三四〇、一七〇円

未納市町村民税                   △四三〇円

右に対する法人税額は金二一四、九一〇円である。

(ハ) 右各法人税額合計((イ)+(ロ))金三、一三三、四〇〇円から法人税法第一〇条による所得税控除額金二、一〇〇円を差引いた金三、一三一、三〇〇円が当期法人税額となる。

又、申告法人税額と右調査法人税額との差額のうち正当な理由のない部分に対して法人税法第四三条を適用して過少申告加算税金二六、八〇〇円を課した。

(4)  昭和二八年度につき、

被告国税局長の調査したところによると、原告の所得金額は金一一、五〇〇円、積立金額は金七、一六〇、一九八円であり、これら課税標準に対する法人税額は金三一〇、二二〇円でその算出の根拠は次のとおりである。

(イ) 課税所得金額   一一、五〇〇円

(A) 決算計上利益金額          △二一四、四二八円

(B) 右に加算した金額           五九二、七二一円

内訳、損金に計算した市町村民税        二九〇、五五二円

源泉徴収加算税                  五、五〇〇円

在庫格下                   二九五、七二九円

前々期認容利子税                   九四〇円

(C) 決算計上利益金額から減算した金額   三三九、一〇九円

内訳、減価償却超過額の当期認容額         二、六八一円

利益の配当                   六一、二一二円

前期不認棚卸格下繰入              九二、六六六円

未納事業税                  一七二、五五〇円

退職給与引当金取崩               一〇、〇〇〇円

(D) 仮計((A)+(B)-(C))     三九、一八四円

(E) 輸出所得の損金算入額              五八円

(F) 法人税額から控除される所得税      二七、六一三円

(G) 差引課税所得金額((D)+(E)+(F)) 一一、五一三円

(H) 右に対する法人税額            四、八三〇円

(ロ) 課税積立金額 七、一六〇、一九八円

内訳、法定準備金               七〇三、〇〇〇円

退職積立金                  四〇〇、〇〇〇円

償却超過額                   一五、三二一円

仮受金                  七、〇九四、五六二円

未納利子税                 △二三六、四三二円

未納事業税                 △六九九、二六一円

仮払法人税                  △六七、六七〇円

棚卸格下                    九二、六六六円

繰越利益金                三、七〇二、四三三円

税金引当金                二、四七三、五一〇円

未納法人税市町村民税          △六、三一七、九三二円

右に対する法人税額は三三三、〇〇五円である。

(ハ) 右各法人税額合計((イ)+(ロ))金三三七、八三五円から法人税法第一〇条による控除所得税額金二七、六一三円を差引きした金三一〇、二二〇円が当期法人税額となる。

二、行政処分の不可変更力等について、

被告国税局長は原告の昭和二五年の再更正決定に対する審査請求により昭和三二年一一月二一日付審査決定をなしたところ、該決定には昭和二五年法律第七二号法人税法の一部を改正する法律の附則第一三項の規定により繰越控除すべきであつた金二、五二一、五四三円の繰越欠損金の控除漏れがあることを発見したので、該審査決定を取消し、改めて昭和三三年一二月二六日右金額を減額して審査決定をなした。

かように行政庁が自らなした行政処分に明白な誤りを発見した場合これを取消し、正当なものに変更することは、それが原処分に比して不利益変更でないかぎり許されるものと考える。また訴訟係属後に行政庁自らその行政処分を取消すことは、法人税法第三七条第六項の法理に照らし正当である。

三、不利益変更禁止の原則について、原告の主張は左記理由により失当である。

(1)  昭和二六年度について、

被告税務署長のなした更正決定は原告主張の如く、

所得金額 三、四七九、四〇〇円 積立金額 三、二一二、七〇〇円

本税   一、六六一、二三〇円 重加算税額  七六二、五〇〇円

であり、最終審査決定は、

所得金額     八、二〇〇円 積立金額 五、六三二、七〇〇円

本税     三七二、七三〇円 重加算税額        〇円

である。およそ不利益処分であるか否かは税額を基準にして結果的に利益となるか否かを判定すべきものであるところ、本件の場合は右のとおり該審査決定は原処分に比し課税標準である積立金は増加しているが、法人税額を二、二五七、二五〇円減少させる処分であるから決して不利益処分ではない。

(2)  昭和二八年度について、

被告税務署長のなした更正決定は原告主張の如く、

所得金額    六五、三〇〇円 積立金額 六、三四二、九〇〇円

本税     三一七、一四〇円 過少申告加算税額 四、二〇〇円

であり、最終審査決定は、

所得金額    一一、五〇〇円 積立金額 七、一六〇、一九八円

本税     三一〇、二二〇円 過少申告加算税額     〇円

である。右のとおり該審査決定は原処分に比し法人税額を金六、二九〇円減少させる処分であるから、前記理由よりして不利益処分ではない。

四、更正又は決定の期間制限について、

(1)  昭和二五年度分

原告は訴外前田商店等に対する売上金を記帳せずしてその所得を秘匿し、そしてその裏勘定による資産を表勘定による資金として導入する必要に迫られるや、株主からの仮受金が入金されたように記帳し、しかもその方法は税務当局による発覚を防ぐため、銀行取引を通じてなす等種々の工作を施した。よつて原告の所為は法人税法第三一条の二第一項但書に該当するから、被告税務署長が確定申告提出期限を三年経過した後になした再更正決定は違法ではない。

(2)  昭和二六年度分

法人税法第三一条による再更正決定は当初更正決定に不足額のある場合その不足額を追加更正するものである。従つて再更正決定が取消された場合はその取消の効果は当初更正決定を超える範囲内に限られ、当初の更正決定は依然とし存続するものである。仮りに原告主張のように再更正決定によつて当初更正決定が消滅するとしても、それは恰も申告に対する更正の関係の如く、当初更正決定が再更正決定に吸収され、実質的には当初更正決定は再更正決定の一部分を成して内在するものである。従つて昭和三二年一一月二一日附名局法審第二三六号の審査決定は、再更正決定により更正決定の金額に追加された部分を全部取消す趣旨のものであり、これによつて当初更正決定はそのまま存続することとなつた。而してその後になされた審査決定はすべて右当初更正決定を前提とするものであるから、法人税法第三一条の二第一項の期間に関係のないものである。

(3)  昭和二七年度分、

被告税務署長が昭和三二年一一月二五日附でなした再更正決定は、原告の昭和二五年度の審査請求に対してなされた審査決定によつて、原処分に異動が生じたため、それに関連してなされたものであるから法人税法第三一条の二に照らして違法ではない。従つてまた、これを前提として同被告の為した昭和三四年一月二九日附誤謬訂正処分も、原処分の一部を取消す趣旨のものであるから違法ではない。

五、なお原告主張の名局法審第二三三号と名協審第五二八号、名局法審第二三五号と名協審第五三〇号、名局法審第二三九号と名協審第五三四号とは、いずれも同一の決定である。

第五、被告等の主張に対する原告の答弁及び抗弁、

(1)  昭和二五年度法人税につき原告が被告等主張の如き確定申告をし、これに対する当初更正決定につき再調査請求をしてない事実は認める。原告は同年度の更正決定についてはその正当性を認める。

昭和二五、六年頃被告主張の小切手が存在し、それが昭和二六年八月一日東海銀行において支払われている事実及び小切手振出依頼人のうち中川善太郎以外の者が虚無人であることは認めるが、右小切手金が原告の昭和二五、六年度における脱漏所得であることは否認する。

原告は昭和二六年度の「春まゆ」及び「夏まゆ」を合計金一四、〇〇〇、〇〇〇円余買受契約をしたが、右「春まゆ」の仕入資金がなかつたので原告会社代表者であつた訴外中川善太郎に於てその所持する現金小切手等を東海銀行に持参して右五通の小切手の振出しを受けこれを担保として同銀行より右買受資金の貸出しを受けた。その後原告は増資をしてその払込金を以つて中川善太郎の責任について肩代りをしようと思い、先ず増資予定を以つて杉浦藤三郎外四名より金七、〇〇〇、〇〇〇円を払込ましてこれを一時原告の仮受金名儀で処理し、これを以つて右銀行に対する中川の責任の肩代りをしようとしたところ、右株主の中に払込不能の者があつたので中川善太郎は昭和二六年八月一日東海銀行において右小切手五枚の支払を受け、そのうち金七、〇〇〇、〇〇〇円を右五名の払込金として原告に納付した。よつて原告はこれを東海銀行の原告の預金口座に預け入れ、中川の責任について肩代りをしたのである。

(2)  被告主張の所得並びに積立金に関する計算関係はすべて否認する。

なお被告主張の前田商店に対する売上金に関する部分は、既に当該年度の納税期限より五年を経過しているから消滅時効を援用する。

第六、証拠関係〈省略〉

理由

第一、課税処分

当事者間に争いのない事実及び民事訴訟法第一四〇条第一項により原告が自白したものとみなされた事実を、本判決理由において必要な限度で纒めると次のようになる。

(一)  昭和二五年度

確定申告  昭和二六年五月三一日

更正決定  昭和二七年五月三〇日(確定)

再更正決定 昭和三一年三月二八日

所得金額 一六、二一三、〇〇〇円

本税    五、六七四、五五〇円

重加算税  二、一七〇、〇〇〇円

原告は右再更正決定に対し審査請求をしたところ、被告国税局長は審査請求を理由ありと認め、左のとおり決定した。

審査決定 昭和三二年一一月二一日名局法審第二三三号(請求の趣旨(一)の(1))

所得金額 一二、一六二、七〇〇円

本税    四、二五六、九四〇円

重加算税    八九一、五〇〇円

被告国税局長は右審査決定に瑕疵ありとして、

(イ)  昭和三三年一二月二六日名協審第六〇八号を以つて右審査決定(名局法審第二三三号、名協審第五二八号、この両決定は同一のもの)を取消し(請求の趣旨(一)の(5))

(ロ)  同日名協審第六〇九号を以つて

所得金額  九、六四一、二〇〇円

本税    三、三七四、四二〇円

重加算税    八九一、五〇〇円

と審査決定をした。(請求の趣旨(一)の(6))

(二)  昭和二六年度

確定申告  昭和二七年五月三一日

更正決定  昭和二八年五月三一日

所得金額  三、四七九、四〇〇円

積立金額  三、二一二、七〇〇円

本税    一、六六一、二三〇円

重加算税    七六二、五〇〇円

原告は右更正決定に対し昭和二八年七月一日再調査請求をなしたところ、同年一〇月一日みなす審査請求に移行し、被告国税局長は

審査決定 昭和三二年一一月二一日名局法審第二三五号(請求の趣旨(一)の(2))

所得金額        零

積立金額  四、七五〇、二〇〇円

本税      三〇七、五一〇円

をなした。

被告国税局長は右審査決定に瑕疵ありとして、

(イ)  昭和三三年一二月二六日名協審第六一〇号を以つて右審査決定(名局法審第二三五号、名協審第五三〇号、この二つは同一決定)を取消し(請求の趣旨(一)の(7))

(ロ)  同日名協審第六一一号を以つて

所得金額      八、二〇〇円

積立金額  五、六三二、七〇〇円

本税      三七二、七三〇円

と審査決定をした。(請求の趣旨(一)の(8))

(三)  昭和二七年度

確定申告  昭和二八年五月三一日

更正決定  昭和三一年二月二九日

所得金額  六、九四八、一〇〇円

積立金額  三、九九〇、六〇〇円

本税    三、一一五、六二〇円

過少申告加算税  一五、五五〇円

右更正決定に対する審査請求に対し、被告国税局長は

(イ)  昭和三二年一一月二一日名協審第二三八号を以つて審査請求棄却の決定をなし(請求の趣旨(一)の(3))

(ロ)  同日被告税務署長が曩になした再調査請求却下決定を取消す旨の決定をなした。

よつて被告税務署長は再調査のうえ次のとおり決定した。

再更正決定 昭和三二年一一月二五日(請求の趣旨(二)の(1))

所得金額  七、六四三、〇〇〇円

積立金額  二、六四一、八二二円

本税    三、三四〇、〇五〇円

過少申告加算税  一一、二五〇円

被告税務署長は右再更正決定に誤謬ありとして、次のとおり決定した。

誤謬訂正 昭和三四年一月二九日(請求の趣旨(二)の(2))

所得金額  六、九四八、八〇〇円

積立金額  四、二九八、二〇〇円

本税    三、一三一、三〇〇円

過少申告加算税  二六、八〇〇円

(右積立金について、被告は本訴において四、七九八、二〇〇円と主張しているが、原告の求釈明に対し、誤謬訂正通知書に記載した金四、二九八、二〇〇円が正当であると述べたので、当事者間に争いのない金額として右金四、二九八、二〇〇円を掲げた)

(四)  昭和二八年度

確定申告  昭和二九年五月三一日

更正決定  昭和三一年二月二九日

所得金額     六五、三〇〇円

積立金額  六、三四二、九〇〇円

本税      三一七、一四〇円

過少申告加算税   四、二〇〇円

審査決定 昭和三二年一一月二一日名局法審第二三九号(請求の趣旨(一)の(4))

所得金額     六六、八〇〇円

積立金額  五、六八五、一七三円

税額      二八四、六九〇円

被告国税局長は右審査決定に瑕疵ありとして、

(イ)  昭和三三年一二月二六日名協審第六一二号を以つて右審査決定(名局法審第二三九号、名協審第五三四号、この二つは同一決定)を取消し(請求の趣旨(一)の(9))

(ロ)  同日名協審第六一三号を以つて次のとおり決定した。(請求の趣旨(一)の(10))

所得金額     一一、五〇〇円

積立金額  六、六六〇、一〇〇円

税額      三一〇、二二〇円

(被告は本訴において右積立金を七、一六〇、一九八円と主張するが、原告の求釈明に対して審査決定通知書に記載された金六、六六〇、一〇〇円が正当であると述べたので当事者間に争いのない金額として右金額を掲げた)

第二、昭和二五年度、昭和二六年度、及び昭和二八年度の各審査決定の適否

(1)  被告国税局長が昭和三二年一一月二一日なした名局法審第二三三号(昭和二五年度分)、同第二三五号(昭和二六年度分)及び同第二三九号(昭和二八年度分)の各審査決定は、行政処分ではあるけれども、実質的に見ればその本質は法律上の争訟に対する裁判であるから、他の一般行政処分と異り、処分庁自ら審査決定に瑕疵ありとしてこれを取消すことを得ないものと解する(最高裁昭和二九、一、二一判、民集八巻一号一〇二頁参照)。

よつて被告国税局長が昭和三三年一二月二六日なした名協審第六〇八号(昭和二五年度分、請求の趣旨(一)の(5))、同第六一〇号(昭和二六年度分、請求の趣旨(一)の(7))、同第六一二号(昭和二八年度分請求の趣旨(一)の(9))の各審査決定を以つて前記各審査決定を取消したことは違法である。

よつて、原告が右各取消決定の取消を求める本訴請求は理由がある。

(2)  被告国税局長がなした右第二三三号、第二三五号、第二三九号の各審査決定は、これを取消す旨の右決定が本判決によつて取消される以上、その効力を持続することになるわけであるが、被告国税局長は昭和三三年一二月二六日更に名協審第六〇九号(昭和二五年度分、請求の趣旨(一)の(6))、同第六一一号(昭和二六年度分、請求の趣旨(一)の(8))、同第六一三号(昭和二八年度分、請求の趣旨(一)の(10))を以つて新たに課税処分をなしているから、同一事件につき重複して課税処分をなした結果になる。そして同一事件について重複して審査決定がなされ場合には、後の審査決定を以つて前の審査決定を変更したものと解すべきであるが、前述の如く国税局長は一旦なした審査決定を取消すことを得ないのであるから、前の審査決定を取消す結果となる後の審査決定は違法であるというべきである。

よつて右後の審査決定の取消を求める原告の本訴請求は理由がある。

(3)  かくして被告国税局長のなした審査決定は同局長が昭和三二年一一月二一日なした前記第二三三号(昭和二五年度分、請求の趣旨(一)の(1))、同第二三五号(昭和二六年度分、請求の趣旨(一)の(2))、同第二三九号(昭和二八年度分、請求の趣旨(一)の(4))に復帰するわけであるが、右各審査決定が取消されるべき瑕疵を有することは被告国税局長も認めているところであるから、右各審査決定もまたこれが取消を免れない。よつてこの点に関する原告の本訴請求も理由がある。

第三、昭和二七年度の再更正決定、誤謬訂正、審査決定の適否

(1)  被告税務署長が昭和三四年一月二九日なした誤謬訂正処分(請求の趣旨(二)の(2))は、再更正決定の課税標準たる所得金額、積立金額及び本税、過少申告加算税の全部についてこれを変更しているのであるから、名は誤謬訂正であつても実質は再々更正決定であると解すべきである。然らば右誤謬訂正処分は確定申告書提出期限である昭和二八年五月三一日より三年以上経過した後になされたものであるから法人税法(昭和三七年法律第六七号による改正前)第三一条の二第一項に違反するものというべきである。よつて右誤謬訂正処分の取消を求める原告の本訴請求は理由がある。

(2)  被告税務署長が昭和三二年一一月二五日なした再更正決定(請求の趣旨(二)の(1))は、同被告においても誤謬があつたことを認めているのであるから、これまた瑕疵ある処分としてその取消を免れない。よつてその取消を求める原告の本訴請求は理由がある。

(3)  被告国税局長は昭和三二年一一月二一日名協審第二三八号を以つて原告の審査請求を棄却しているけれども(請求の趣旨(一)の(3))、同時に被告税務署長のなした再調査請求却下決定を取消して事件を同署長に差戻しているから、結果においては原告の審査請求を認容したと同一である。国税局長は税務署長のなした更正決定の当否を必ず自ら審査すべく、事件を原税務署長に差戻してはならないという法律上の根拠はない。よつて原告は右審査請求棄却決定の取消を求める実益を有しないから、右決定の取消を求める本訴請求は訴の利益なきものとして請求棄却を免れない。

第四、原告の訴の利益について、

以上の理由により、昭和二五年、昭和二六年、昭和二八年の各年度における被告国税局長の審査決定が全部取消され、昭和二七年における被告税務署長の誤謬訂正処分及び再更正決定が取消され且つ被告国税局長の審査請求棄却決定に対する本訴請求が棄却されることになると、税務審査の段階は、昭和二五年度分については再更正決定、昭和二六年及び昭和二八年度分については各更正決定と、以上各年度の決定に対する原告の各審査請求、昭和二七年度分については更正決定とこれに対する原告の再調査請求の状態にそれぞれ復帰することになる。しかし右再調査請求については既に請求の時及び再調査請求却下決定を取消す旨の審査決定があつたときから三ケ月以上経過しているから、右再調査請求はみなす審査請求に移行しているものと解すべきである。よつて被告国税局長は昭和二五年ないし昭和二八年度分について改めて審査決定をしなければならないことになるわけであるが、その審査の結果は、前記各最終処分と同一になる公算が強い。しかし、被告らが本訴において昭和二七年度及び昭和二八年度分について主張する積立金額と、被告らが原告に通知した積立金額の額が相違することは前記のとおりである。そうすれば被告国税局長が改めてなした審査決定が果して前記最終処分と一致するや否やは俄かに断定し難い。よつて被告国税局長が改めて審査決定をなしたとしても、その結果は右最終処分と一致するから、原告には本件各処分(審査請求棄却決定を除く)の取消を求める利益がないとは必ずしもいい切れない。よつて原告には右各処分の取消を求める訴の利益があるものと認める。

以上の理由により請求の趣旨(一)の(3)の請求はこれを棄却し、その余の請求はすべてこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九二条但書第九三条第一項本文を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 松本重美 加藤義則 横山弘)

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